ベイカレント・コンサルティング寄付講座「DXと企業経営」

2024年度から、株式会社ベイカレント・コンサルティングの寄付を受けて、「DXと企業経営」の寄付講座を3年間の年次付きで開講します。MERCは本寄付講座の窓口として活動します。

本寄付講座では、デジタル・トランスフォーメーション(通称「DX」) という現象について、学術的な知見を蓄積することを目的としています。DXに関する厳格な定義は学術的には存在しませんが、経営学分野では、デジタル技術を使い、新たなビジネスモデルを開発したり、組織を新たな形に作り替えたりすることを広く「DX」と捉えています。経済産業省もDX推進のためのガイダンスを2020年に出すなど、官民双方において関心の高いテーマとなっています。

しかし、DXに対しての受け止め方は様々です。日本企業は、あるキーワードが騒がれては下火になる、という経験を過去にもしており、その時々の経営陣が飛びつくただの「バズワード」として受け止めている企業人もいます。現に日本経済新聞本誌の記事検索をすると、DXという言葉が含まれている記事の数は減少傾向にあり、徐々に「下火」となっている傾向も見られます(図1)。また、外部からの圧力を受けた経営者が、仕方なしにDXを推進している企業もあります。そのような企業ではDX担当者が何のためにDXをやるのかに苦心していることもあります。結果として、現場から賛同を得られなかったり、大きな組織変革へとつなげられていなかったりすることも散見されます。

図1:ブームとしてのDX

* 日経テレコン記事検索システムを用いて「デジタル・トランスフォーメーション」を含む日本経済新聞本誌の記事数をカウント

そのような実態を踏まえて、本寄付講座では、DXを中心とした日本企業のデジタル技術の活用に関して、学術的な知見から客観的に論じることを目指します。具体的には、DXの成功事例・失敗事例の定性的調査、および日本企業(可能ならば非日本企業も含む)を対象にした大量データに基づく定量的調査を行います。昨今のDXの取組みを紐解くことで、経営学の知見に学術的貢献をしていくことが目的です。

具体的には以下のようなトピックを扱っていきます。

① 「DX」の普及の実態把握

DXという言葉がどのように広がり、どのように企業で使われるようになったのかについて、各企業の公刊データ、メディアの分析などを通じて明らかにします。企業がどのような理由でDXに取り組むようになったのか、そこに「他社がやっているから自分もやる」という同型化的な行動が含まれていないのかを明らかにすることで、DXの普及という現象をどのように位置づけるべきかを議論します。

②DXと組織論

組織論との関係は二つの方向性が考えられます。1つ目は、DXを組織変革の一種として捉え、組織変革論への貢献を目指す方向性です。DXによってどのような組織が目指されるのか、組織変革はどのように成し遂げられるのか、DX固有の組織変革の成功要因は何か、日本企業に特有の組織変革の阻害要因はあるのか。こうした問題意識に基づきながら、DXによる組織変革の成功・失敗事例を比較することで、組織変革論への貢献を目指します。

2 つ目は、DXの結果、新しい働き方(ルーチン)を導入した従業員に注目した研究です。デジタル技術を用いることで人々の働き方はどのように変化し、それが個人(創造性、モチベーション等)にどのような影響を与え、組織にどのような結果をもたらすのかを明らかにします。前者よりもよりミクロな視点にまで下りることで、DXがなされた後の組織の実情を異なる視点から捉えます。

③DXとマーケティング論

デジタル技術を用いてどのように顧客の情報を活用するのかに関する研究です。これは企業サイドと消費者サイドの二つからアプローチします。企業サイドとしては、デジタル技術を用いて取得した大量の顧客データの分析方法の議論、およびそれを元にしたマーケティング活動の在り方について議論します。そうした研究を通じてマーケティングサイエンスおよび消費者行動論的研究を行います。

消費者サイドとしては、デジタル技術が世の中に普及することによる消費者の変化について議論します。インターネットに始まり、SNS、スマートフォン、メタバースなどの新しい情報技術やメディアは消費者行動に多大な影響を与え、経済システムの構造自体にも変化が起きています。最近では、余剰から生じた消費者の製品・サービス(宿泊、車、財)をほかの消費者に提供するAirbnb、Uber、オークションなどが広がりつつあります。ここでは財の供給者と需要者に区別はなく、プラットフォーマを介したC2C(消費者間)相互作用にもとづいたシェアリング・エコノミーが構築されています。このような現状を踏まえ、デジタル技術によって、個々の消費者の価値観などがどのように変化するのか、それによって顧客の購買行動が変化するのかなどを明らかにします。

本研究は現実の企業・組織の活動を研究対象とするものであるため、実社会とのコラボレーションを重視します。本寄附講座に関連した議論を希望される実務家からの連絡を歓迎します。また、本寄附講座をより開かれたものにするために、外部の方も参加できるシンポジウムを、ベイカレント・コンサルティングと共同で複数回開催します。また、本テーマに興味のある学生に対して、研究・教育の場を適宜用意する予定です。

担当教員

  • 大木 清弘(東京大学大学院経済学研究科准教授)
  • 阿部 誠(東京大学大学院経済学研究科教授)
  • 稲水 伸行(東京大学大学院経済学研究科准教授)
  • 朴 英元(東京大学大学院経済学研究科 ベイカレント・コンサルティング寄付講座「DXと企業経営」 特任教授)
  • 椙江 亮介(東京大学大学院経済学研究科 ベイカレント・コンサルティング寄付講座「DXと企業経営」 特任助教)

※連絡先はMERCと同一です。

東京大学大学院経済学研究科

経営教育研究センター

〒113-0033東京都文京区本郷7-3-1

MERC
(Management Education and Research Center)

Graduate School of Economics, Faculty of Economics, The University of Tokyo

7-3-1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo 113-0033

Copyright © MERC, The University of Tokyo
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